わぎょうの日記

アニメ・映画・雑記ブログです。

あの頃…

恋に恋焦がれて、恋に恋していたであろう

20代半ば過ぎても餓鬼だったあの頃

俺は恋していたのだろうか?

只々背伸びだけしていたように思い始める。

”何で”だけが今でも心に刺さっている。

段々思い出せなくなってきている事が多くなってきているのに

再び、あの道のりを走りたいと思っている俺がいる。

 

別れ話 

 あの頃は、まだ高速料金が普通車と同じで高速で2人乗りも出来なかった。 

24歳と3か月のある晩のことだ。

「211号のわぎょう君電話がきてます。」

寮管の低音の声が寮内に響く

慌てて階段を駆け降りる。

寮管の部屋に着くと小窓から顔を覗かせて

「優ちゃんからだよ」言ってくれた。

軽く会釈して受話器を受け取る。

23時過ぎると電話料金が安くなる時間帯だったから、

この時間を見計らって電話をくれる。

俺からもかけたかったが彼女は拒否るので従っていた。

最近、会社が彼女の田舎にも工場をつくったので、

離ればなれになって数ヶ月たっていた。

いつも俺はスカンピンでクリスマスやスキー旅行も彼女のお膳立てだった。

スキー旅行から数週間後の電話だった。

「もしもし、どうしたぁ。」

「急に電話してごめんね。」

優子はそう言うと、その続きをなかなか話そうとしない。

「もしもし、どうした、なんかあったか?」

こう聞いても、話そうとしない。

耳を澄ますと電話口から、泣いている様な雰囲気を感じる。

優しくどうしたと繰り返し聞いてみる。

「別れよ。」と涙声でポツリと言う。

俺はその言葉で声が詰まる。

「ごめんね。ほんとごめん」泣きじゃくりながら繰り返す。

「本当にどうした。別れよって何故?」

そして俺は咄嗟に

「今からそっちに行く」

電話の途中で切った。

でも「来ても会わないよ…」ここまでは聞こえていた。

4月最後の金曜日の23時頃だった。

部屋に戻ると急いで準備する。

外はまだ寒い。

しかもガスがかかっている。

今みたいに電熱の入っている防寒用の上着とかないので、

皮パン、紙製のつなぎ、秋冬用のヤマハのジャケットと着込む。

漫画「750ライダー」で主人公が新聞紙を体に巻いて走るシーンを思い出す。

ここは神奈川県高座郡寒川町地図を見ながら確認する。

目的地は兵庫県朝来郡生野

長距離は、ここから北海道まで走った経験がある。

大まかにみたって大体同じ位の距離感だ。

とにかく行くしかない。

その時はそれしか考えられなかった。

準備が終わって、さっさと部屋を出て階段を駆け降りる。

降りたところで後輩とすれ違う

「わぎょうさんどこ行くんすか?」

「生野に行ってくる」

「ええ?!今からっすか?」

「おうよ!じゃあな」

そう言って駐輪場まで駆け出した。

愛車はYAMAHA FZR400RR

89年式のレーサーレプリカだ。

不安交じりのエンジン始動

大丈夫お前となら行ける。

そう言いながら寮を出発した。

だが西方面は単車で鈴鹿までしか行った事が無い。

しかも一人、路面は濡れている。

取り合えず雨具を着て出発だ。

時間確認、まだ0時を回ってはいない。

神川橋を通り129号に出て厚木インターに向かう。

小雨混じりかなんとなくガスってる感じで、インターはオレンジ色のナトリウムランプで染まっている。

東名に入って暫く走る。

最初は好調にかっ飛ばす、頭の中は優子の事で頭が一杯である。

中井辺りまで来ると寒さで凍えたので休憩をとった。

ホットの自販機を探す。

コーヒーを飲みながら、スパスパと煙草をふかす。

頭の中は「どうして」だけが渦巻いてる。

煙草2本吸ってまた走り出す。

長距離トラックがバンバン速度を上げて走ってる中、

トラックからの風圧に負けずに巡行する。

会いたさに突き動かされるように単車を飛ばす。

度々休憩重ねながら先を進む。

途中日本平辺りで心が折れそうになる。

「行って無駄だったら、ただの馬鹿だぞ」

「いやいや顔見て話せば絶対気が変わる」

心の葛藤は続く

「10時間12時間かけてフラレに行くのか?」

「いやいや、顔見たら変わるって」

これらの言葉が入れ替わり立ち替わりに頭の中に浮かぶ。

静岡に入って真ん中あたりまで来て気弱になってゆく。

「今からだったら戻れる。」

「ちょっとした夜間ツーリングだ。」

「戻ったって誰も何も言わんよ」

これらの葛藤が頭の中で何度もリピートする。

出発→走行→休憩→出発、暫くはこの状態が続くのだ。

寒さが丁度良かったのか、少しづつ冷静さが戻る。

「大丈夫」と言う何の根拠もない自信が意思決定を明確にしていく。

大丈夫往けるさ

疲労と切符

 高速を数時間走ってると流石に疲労も溜まる。

走りながら色々試す、タンクに張り付いてみたり、

カウルに隠れて体に当たる風圧を減らしてみる。

これだとなんか腰が痛くなる。

長時間は無理そうだと思い次に寝そべってみる事に、

走りながらタンデムステップを足で倒しそこに足を置く、

そう仮面ライダーで見たような体制だ。

だが、楽だけど不安定さが恐怖感を煽る。

”これで倒れたら、洒落にならん”

そう言えば「ふたり鷹」で先輩ライダーに連れられて、

二人の鷹が走ったシーンあるな

と思い出していた。

結局は普通のポジションに納まる。

”二ーグリップしてる方が安定してる”

尾張小牧辺りで夜が明け始めてきた。

空が白んできてる。

後ろから一台のトラックが追い上げてきていた。

それに合わせてスピードを上げた瞬間

ハイ来たー。

パトカーに誘導されてしまった。

初の高速違反切符

近くのPAに誘導され、到着後パトカーに招かれてしまった。

絶対に招かれたくない車に乗ることになった。

急いでいるのに、こんなとこで邪魔が入るとはと渋々お招きに預かる。

何キロオーバーだったかは昔の事なので忘れた。

「そんな急いでどこへ行くところなの?」

「あと数キロ出てたら免停だよ」

この時はなんか咄嗟に嘘言ってた。

それも超下手な嘘

「父が病気でって…」

免許証見たら解るでしょ、あまりにも下手な言い訳

あんたの親は北海道やん!ってつっこまれずに切符だけ渡された。

テンションは下がり、そこからは法廷速度を守りつつ、

気持ち誤差範囲ぐらいで走った。

関ヶ原の看板が見えた辺りからか、なんか急に怖くなる。

歴史では、ここで戦国時代合戦が行われた場所なんだろうと、

連想したからだ。

PAの休憩所に意識取られそうになりながら、

ロンリーツーリングは続く

大阪に入った頃は通勤ラッシュが始まりかけていた。

少し車は多かったが問題はなかった。

姫路インターで降りて、312号を北上して生野に向かった。

切符切られてから休憩しないで走り切っていた。

到着

生野工場に着いた頃には10時をとっくに回っていた。

守衛所で聞きに行こうとすると、偶然にも彼女の親友とばったり会った。

彼女の親友は驚いた様子で声を掛けてくれた。

集会するような場所に案内されて、

「ここで休んでて、後で優子連れてくるから」

と言って戻っていった。

俺は疲れ果てて、いつの間にか眠っていた。

どのくらい経ってかドアが開く音で目が覚めた。

そこには優子と親友が立っていた。

「会いに来たよ。昨日のあれ嘘だよな」

「また会いたくなったら、また来るし」

「いつだって会いに来れる」

先に口を開いたのは俺だった。

俺は勝手に思っていた。

顔見たら、そばに駆け寄って優しい言葉をかけてくれると、でもそうじゃなかった。

「何故来たの?来てもダメって言ったじゃない」

泣きじゃくりながら親友にもたれかかっている。

「顔見て話せば変わると思った。電話だけで済ます話じゃないだろ」

「どうしてもダメなのか?」と問うた時、彼女は小さく頷いて、この場から立ち去っていった。

この後はもう何やってんだか、ウロウロして同郷の先輩に無理言って泊めてもらった。

夕方から小雨が降り始めていた。

帰還

 翌朝は雨が降り続いていた。

別れを象徴するかのように少し強い雨が降っている。

いや、これは俺の心が雨をもたらしたのかも知れない。

金も余り持たずに来たので帰りは下道だ。

先輩に泊めて頂いた礼を言うと走り出した。

姫路まで南下して神戸大阪方面に向かう。

姫路城を見たからか、やたらと涙が出てくる。

姫路城は彼女と見に行った思い出の場所の一つだ。

ヘルメットの中で大声で泣き叫びたい気持ちが沸いてくる。

それでも心をぐっと抑えるが、涙だけは押さえられなかった。

明石に入った時はプラネタリウムの思い出

神戸に入った時は異人館と思い出が出てくる。

何でこうなったのかは解りきった事だ。

字が下手でも手紙出せばよかったじゃないか、

もっと彼女の事考えられればよかった。

してあげたい事を素直にしていたならと次々出てくるのだ。

記憶では大阪まで着いたのは覚えていたが、

その後はどう走ったのか覚えていない。

ふと気付いた時は鈴鹿サーキットの横にいた。

途中で事故して死んでもいいやと思っていた。

鈴鹿には2度来ていたから帰り道を心配することはなかったが、

涙だけは止まらなかった。

名古屋に着いた頃には辺りは暗くなっていた。

そこからは国道1号線を走り、箱根の峠辺りで車に煽られて、

寮に着いたのは23時を回っていた。

下道上等で夜中に帰り着いた。

涙も枯れ果てていた。

 

今を思えば、馬鹿な男の失恋話である。

10時間かけてフラれに行って、16時間涙で帰ってくる。

滑稽極まりないカッコ悪い男だったのさ

でも、そんな俺でも、もう一度訪れてみたいと思っている。

あの日の様な体力が無かったとしても

あの日を思い出す為に走り出したいと思っている。